Hair with Water 赤塚治美さん

震災直後から、避難されている方むけのサービスを開始した美容室『ヘアウィズウォーター』の赤塚治美さん。
女性スタッフが多い職場で、自分にとって無理がなく、しかも継続してできることは何かを考えてはじめたサービスについて、また体験を通して得た支援する側の接し方などをうかがいました。
やまがた震災支援活動アーカイブ Archive number 010
赤塚 治美 さん
あかつか はるみ さん


赤塚治美さん Hair with Water ヘアウィズウフォーター のプロフィール
1965年、『白ばら美容室』として山形市宮町にオープン。のちに店名を『ヘアウィズウォーター』に変更。先代の長女赤塚治美が受け継ぎ、2010年より山形市大手町に移転。五感を満たすヘアサロンとして、エステ&マツエク専用の個室、ミニギャラリー、心のエステコーナーなども設置。山形子育て応援パスポート協賛店
・山形県山形市大手町3-20 TEL 0120-330-532
・E-mail info(a)hairwith.com ※(a)を@にしてお送り下さい

Hair with Waterについての詳細は・・・
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支援活動の経過
2011年
3月 シャンプーブロー支援開始
以降2015年6月現在、継続中
2013年
2月 避難ママの写真展開催
電源の提供を

 震災当日は営業しており、6~7名のお客様がいらっしゃいました。ぐらぐらと揺れる天井の照明を見てただ事ではないと思い、2階のお客様を1階ご誘導し、ヘアカラーをされていた方はすぐに洗髪をしました。でもすぐに停電になってしまったので、スタッフの車のヒーターをかけて髪を乾かし、出来るかぎり整えた状態でお帰りいただきました。
 その後スタッフも全員帰宅させ、私は小学4年生の娘を学校まで迎えに行ったのですが、集団下校させますということで私だけいったん帰宅したんです。娘は無事に帰ってきましたが、いまになって思えば先生にお願いして、一緒に連れて帰ってきてもよかったなという気がしています。
 当時はマンションの7階に住んでおり、まっくらな階段を携帯の明かりを頼りに壁をつたって登っていきました。でも水もガスもストップしていたので、暖はとれない状態で。ちょうど3月末に予定していた引っ越し先には水もあったので、同じマンションの知り合いのご家族と一緒に新居で夜を明かしました。
 翌日は、当店で使っているヘアケア用の水のタンクも空になってしまったので、ヘアカットのみで営業することにしたんです。数名の方がご来店くださいました。
 電気は復旧したので、何か出来ることはないかと考え、「お店で携帯の充電できますよ。ご利用ください」とTwitterに流したりしました。


商売を通して支援活動を考える

 うちの店は母の代から美容室で、創業から数えると50年になります。私の代になってからは、”五感を満たす癒しの空間”をテーマにやってきました。でも震災を体験して、命にかかわるような出来事の前では、美容室っていらないんだなーって思ったんですよね。平和であって初めて成り立つ仕事なんだなと。私は美容の世界が好きで誇りをもってやってきましたが、でも何かおごっていたんじゃないかとか、そんな気持ちにもなって少しふさぎました。あの時期はいろんな職業の方が同じような気持ちになったのかもしれません。仕事って何だろう、商売をするってどういうことなんだろうって。

 うちのサロンの向かいに、古くからやっている自転車屋さんがあるんです。
 そこのおじさんは毎朝シャッターを開けて、自転車を数台店先に並べて、修理などをしています。学生が通学の帰りに立ち寄ったら、50円や100円、ひょっとしたら10円でパンクを直してくれるような町の自転車屋さんで、もう何十年と同じ日々を繰り返しています。
 震災の翌日、ふと向かいを見ると、おじさんはいつも通りシャッターを開けて、自転車を並べ始めたんです、いつも通りに。最初は「こんなときだけど、おじさんは店をあけるんだな・・・」なんてぼんやりみていたのですが、車の給油もままならない事態になって、自転車の必要性を見直す人が増えてきて。修理を頼む人がやってくるようになったんです。
 どんなときでも必要としてくれる人がいる。だから、いつも通りのことを、いつもの通りにやればいいだ。淡々としたおじさんの姿に、商売の真髄を教えてもらった気がして、私もこの美容室をしっかり経営していけばいいのだと思い直すことができたんです。

 うちのサロンとして何か支援したい気持ちになりましたが、現地での炊き出しの参加、がれきの撤去、被災地でのヘアカットなど、社員全員にそれを強いるようなかたちで現地入りするのにも抵抗がありました。
 それと、震災のような緊急事態はともかく、ボランティア活動に夢中になり過ぎて家族と過ごす時間がおざなりになっている人の話も聞きます。ちょっと辛口になってしまうかもしれないけど、ボランティアって直接感謝してもらえるから手応えがある。日常生活や家庭の中では体験できない満足感があるんじゃないかと思うんです。でも本当のボランティアって、自己満足を得るためにいくものじゃない。直接現地に行って何かをするなら、この本質をしっかりと分かったうえで取り組まないと、結果的によくならないはず。スタッフ全員がこの意識を共有するためには、まずは震災でショックを受けた身近な自分たちの家族やお客様とかかわる時間も必要です。こうしたことをふまえて、美容室を経営する立場の私で何ができるんだろうって考えていました。

 震災から数日して、津波でアパートが浸水した仙台の友人が青森の実家に帰る途中、バスで山形まで来ることになり、家でいったん休憩してもらいました。着替えもなく10日間ほとんど食べていない状態だったので胃が小さくなりすぎて食べ物は受け付けず、お茶を飲むのがやっと。衰弱している様子を目の当たりにして、本当に大変なことが起きているんだと改めて実感しました。それでうちの店でシャンプーをしてもらったんです。
 プロが行うシャンプーって頭のツボも知っていますし、自分でするよりはるかにリラクゼーションの効果があります。久しぶりにすっきりしたと喜んでくれた顔を見て、そうだ、これを無料提供しよう。何かを大げさにやるより、私たちがずっと続けられる支援になる、と思ったんです。お子様のヘアカットも加えて、店先に看板を出しました。

 支援活動をしていたお客様が広めてくださったおかげもあり、たくさんの方がご利用くださいました。2階まで水が上がってきて、天井につかまって孫を引き上げたおばあちゃんもいらっしゃいましたし、スタッフたちも壮絶な体験を聞く機会になりました。
 美容室は日常の延長にありながらも、どこか非日常を味わえる心地よさを提供する場所でもあります。なので、被災されている方に対しても過剰な気を使って同情していると誤解されることのないよう、他のお客様と変わらずに接することを心がけていました。
 もちろん大変な状況下で暮らしているのですから、言葉使いや話題には気をつけていたのですが、1度うっかりカルテを見落とし、一般のお客様としてご来店くださった避難者の方にご自宅でのヘアケアのアドバイスをしたことがあったんです。「いまはそんなことができる状況にないです」と、わっと泣いて怒ってしまわれて。お詫びしてお許しをいただき、またその後もご来店いただきましたが、接客の難しさと震災の影を目の当たりにした出来事でした。

 支援活動として、店内のミニギャラリーで写真展を開催したこともあります。撮影者は、当時避難されていたママ神野彩佳さん。日常の何気ない1コマを切り取ったもので、最初はお子様の成長の記録を撮りはじめたのがきっかけだったそうです。
 震災後は家族が離れて暮らすことになり、パパと会えない時間の出来事を伝えるような作品がたくさんありました。
 写真に添えたショートエッセイの言葉も、明るさの中にも不安があったり、だけど物悲しいものではなく、ほっとする幸せを感じさせてくれたり、どれもが胸に響きました。

 また、今年の春までは避難していた方がスタッフとして働いてくれていたんです。復興住宅が当たって福島に帰りましたが、当事者の立場で接客してもらえ、彼女がいてくれたことも大きな助けになりましたね。


できるかたちを

 昔から心理学などにも関心があり、9年前にNLP(*1)と出会って資格も取得しました。私の講師は阪神淡路大震災でPTSD(*2)になった経験もあり、今回の震災について、「人は、3年間はがんばれる。4年目あたりから心の疲れがでてくる」と話しています。仏教のセミナーなどにも参加しているのですが、大切なのは「一人でやろうとしなくていい」「人に頼ってもいい」「人生に難題は起きるもの」「人は戸惑いながら生きていくもの」そんな言葉が、心のケアに共通してあるように思います。迷惑を掛け合える関係をいかに築くか。そういう意味で、日本の町内会って、血縁だけに頼らなくていい、すばらしい仕組みだなーと思うんですよ。

 本当の人助けって、自分が成熟していないと出来ないことがたくさんありますよね。心を込めてやりましょうと言って込められるものでもないですし。お店に来られた方の心が沈んでいるとき、愚痴りたいときに共感でき、ほっとできる空間づくりと支援ができたらいいなと思っています。

(*1)アメリカで誕生した心理学。神経言語プログラミング。
(*2)Post Traumatic Stress Disorder :心的外傷後ストレス障害)



〈取材:2015年5月〉


 取材を終えて
浅倉かおり
 支援には大きく分けて2つの方法があるかと思います。イベントとして行うかたちと、継続していくかたち。いまもお店の入口にはシャンプー無料の看板が出ており、道行く人がふと目にすることで、震災に思いをよせることができます。看板を1つ置くだけでも、ちゃんと支援につながるのだなーと思いました。
浅倉 かおり