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「天気晴朗なれど波高し」(平成21年4月コラム)

連載:Mr.Ishikawaの時事コラム

「天気晴朗なれど波高し」とは
 
明治38年5月27日、日本海海戦を前にロシアのバルティック艦隊を発見し日本艦隊の東郷平八郎司令官が大本営に一報した打電文の一部である。金融危機・経済危機で世界中が激震に襲われているものの、日本海周囲を巡る政治経済面の情勢に限れば「天気晴朗」である。日本にとって中国は最大の貿易相手国になり産業経済関係が深化し、韓国とは拉致被害者の田口八重子さんの家族と大韓航空機爆破事件の金賢姫元死刑囚との対面が実現し、中国大陸との緊張関係から国民皆兵体制をとってきた台湾は5年後に徴兵制を廃止するなどの情勢下にある。
 ところが、軍事面をみると一変して日本海は「波高し」である。北朝鮮が4月4日から8日の間に「人工衛星『光明星2号』を運ぶロケット『銀河2号』を打ち上げる」と国際海事機関(IMO)に通告した。ロケットが積むものが衛星であれ核兵器であれ、日本全土を標的にできてアラスカまで届くロケットを保有するのはこの上ない脅威である。北朝鮮は世界9番目の核兵器保有国になったが、保有しているだけでは脅威は少ない。それを運ぶロケットを保有できて初めて他国にとって脅威となる。日米韓は「発射すれば迎撃」と言い、北朝鮮は「迎撃されれば報復」といい、飛び交う情報は一触即発の状況だ。おまけに、中国が21年間連続の国防予算2ケタ増を続け、09年度に原子力航空母艦2隻の建造に入るという。原子力空母を持つのは米仏に続き3番目である。海戦力増強によって中国は米国の第7艦隊が日本海をわが者顔で動き回るのを牽制したい。それによって日本が領有権を主張する釣魚島(日本名・尖閣諸島)と東シナ海のガス田開発を日本無視で行う意図を感じる。

北朝鮮の気持ちは分からないでもない。
 韓国と北朝鮮との領土の境は「軍事休戦ライン」であり国境ではないのだが、そんな状況下で大規模な米韓合同軍事演習が行われ神経を逆なでされた上、米国の偵察衛星で国内状況が筒抜けになっておりイライラが募る。核兵器を持ちたくなるしミサイルを打ちたくもなる。そもそも米国は自分は核を持ちながら他国には持たせないでは理屈が通らない。米中露韓日と北との6者協議は米国がイラク問題を抱えていて手薄だったとはいえ、テロ支援国家指定解除させられながら核兵器開発やミサイル発射を牽制できないなど北朝鮮の時間稼ぎを手助けしただけに終わった。ブッシュ政権は金正日政権から手玉にとられた格好だ。中国の立場も微妙である。ロケット打ち上げ通告に対し一応は北朝鮮に慎重な対応を求めながら北朝鮮の金正日支配体制に変化が起きないことを望んでいない。中国の胡錦涛政権は軍部の対外強硬派を掌握しきれていない。党軍事委主席ではあっても人民解放軍の「強大な海軍力の創設」(党理論誌「求是」)を求める勢力を抑えられない。まだ軍高党低の構造にある。
 中国は朝鮮戦争で北朝鮮に肩入れし膨大な兵士の犠牲を払い米軍を追いつめた「血で塗り固めた関係」にあり、おいそれとそれを変えられない。経済的にも北朝鮮に対して膨大な食糧と石油の援助を行いながら、北朝鮮から石炭、レアメタルを調達している。政治的には仮に北の金正日体制が崩壊し民主体制にでもなれば中国側の国境周辺にいる数万の朝鮮族に与える影響は小さくなく、中国共産党の一党独裁体制が揺らぎかねない。

北も「先軍政治」で軍部最優先の体制である点で同じだ。
 金正日国防委員長の基本方針は「強盛大国」であり、金体制に忠誠を誓う朝鮮労働党による国家支配体制に軍が組み込まれ、批判分子はすべて粛正され批判できる人はいなくなり、数百万の人民が餓死しても平然としておれる基盤を整えた。核兵器開発、ミサイル開発も先軍政治の一環であり、核廃棄の考えなど毛頭ないはずだ。
 労働党員約200万人は人口の10%弱を占め、超エリートとして特別扱いを受け、残りの一般国民は人間以下の扱いを受ける。その党と一体化した680万人の人民軍は精強を誇り、韓国軍は圧倒的に劣勢である。北朝鮮は核兵器開発のほか、化学兵器を使う奇襲戦法で韓国侵攻を行い、まず米韓両軍を無力化する作戦があると言われる。このため在韓米軍や軍族から炭疽病予防ワクチン接種を求める声が上がっている。このような日本海を取り巻く緊張の高まりは「経済関係さえ良好であれば問題は起きない」と考える日本の風潮に対する警鐘である。

 
 
 
 

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