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「憎悪の増幅と連鎖」((平成21年2月コラム)

連載:Mr.Ishikawaの時事コラム
「憎悪の増幅と連鎖」((平成21年2月コラム)

 イスラエル軍が昨年12月27日にパレスチナ自治区のガザに攻撃開始し一般住民1300人が殺害されたとして日本国内で非難の声が上がり、国連安保理もイスラエル軍の撤退を求める決議を採択した。
 そして、1月18日にガザを支配するイスラム教徒過激派ハマスとイスラエルが停戦宣言を行いイスラエル軍がガザから撤退した。戦意の無い住民が殺傷されるのは許されない。
 だが、この問題の深層には3000年の長きにわたるイスラエル人とパレスチナ人との領土戦争がある。
 あまりに長期の戦争なので戦時と平時の境が無くなり、何度も同じ問題が繰り返され憎しみが蓄積され増幅されてきた。
 そして、イスラム教徒のガザはユダヤ教のイスラエルに囲まれているが、イスラエルはイスラム教の国々に囲まれており、イスラム教徒のイスラエルへの憎しみはガザの外に広がり増幅している。
 四方を海に囲まれた天然の要塞で安穏に暮らす日本人には分かりにくい問題である。

 ハマスをはじめとするムスリム(イスラム教徒のこと)過激派は世界に散らばっている。
 ニューヨークの貿易センタービルを崩壊させたアルカイダの残党は健在であり、インドの商業都市ムンバイを標的にしたテロ行為も甚大な被害者を出し、核兵器開発を急ぐイランもイスラエルの深刻な脅威である。
 イスラム教徒は過激派ばかりではないが、信徒は日本でジワジワ増えているだけでなく世界中でも増え続けており、世界の人口の19%を超えカソリック教徒の17.4%を上回り世界のNo1宗教となった。
 ユダヤ教徒のユダヤ人も世界中に分散しているものの人数は少ない。アメリカやイギリスなどユダヤ教と“親戚宗教”であるキリスト教の国々がイスラエルの味方をしており、イスラム過激派の新たな標的になり紛争の火種は拡散している。
 そして、ユダヤ教もイスラム教もキリスト教も信仰の対象は唯一絶対神であり排他的で過激行動に走りやすい。
 あらゆる生き物に神が宿ると考えたり、仏壇と神棚と両方を祭る穏やかな信仰心の日本人とは精神構造が異なる。

 ガザは地中海とエジプトとイスラエルに囲まれた山形市ぐらいの面積に150万人が暮らすところである。
 このガザとイスラエル領を含む一帯は紀元前3000年前は複雑な部族からなるペリシテ人(パレスチナの語源)が住んでいた。
 この地域の歴史をごく簡略化すると以下のようになる。
 紀元前1280年ごろ、エジプトで迫害を受けていた人々をモーゼが脱出させシナイ山へ導き、神ヤハヴェと契約を結びイスラエル(神の戦いの意味)王国を建設、ユダヤ教(イスラエル12部族の一つユダ族の居住地名)が起こった。
 その後、さまざまな神を信仰する数多くの部族をムハンマドがアッラー(アッ=the、ラー=god)に絶対服従(イスラムの意味)する信徒で構成されるイスラム教を起こした。さらに、パレスチナのベツレヘムに生まれたイエス・キリストを神との仲立ちとするキリスト教が起こり、現在イスラエルの首都であるエルサレムはユダヤ教、イスラム教、キリスト教の聖地となった。当初は3つの宗教も多くの部族も仲良く暮らしていたのだ。

 ところがその後、アッシリア、東ローマ帝国、オスマン帝国など幾多の国々に占領される間にユダヤ人は世界各地に追いやられ、住む国を持たないディアスポラ(流浪の民の意味)となった。そして、各地で迫害(代表例がナチス・ドイツによるユダヤ人のガス室での大量虐殺:ジェノサイド)を受け続けた。ユダヤ人は神から“約束の地”であるパレスチナを国家再建の地にする運動(シオニズム)を起こし世界中から賛同者が移住してきた。

 そして、イギリスの外相バルフォアがイスラエル建国を認め委任統治領とした。第2次大戦後の1947年に国連はイスラエル独立を認め、既存パレスチナ住人とユダヤ人との居住地分割を決めた。
 しかし、既存のパレスチナ住民や周辺を取り巻くイスラム教のアラブ諸国はこれを認めず「イスラエルを地中海に追い落とせ」と4次にわたる戦争をしかけた。
 だが、いずれもイスラエルが勝利し緩衝地帯であるガザやヨルダン川西岸を占有した。今度はパレスチナ人が国を持たない民となった。

 しかし、1993年の中東和平・オスロ合意でイスラエルはガザやヨルダン川西岸のパレスチナ人の自治を認め、イスラエルは占領地に残していた軍隊を2005年に撤退させた。
 イスラエルとガザはイスラム穏健派のファタハ政権とは平和共存関係を維持できたが、2005年秋に過激派ハマスが選挙で勝利しハマスは2007年6月に武力でガザを占拠しイスラエルへのロケット弾攻撃を続けた。
 ハマスはイスラエルを敵視するイランなど周辺諸国から武器援助を受けていると言われる。
 イスラエルがそのような軍事的脅威をはねのけるには軍事力で対抗する以外ない。
 軍備に劣るハマスがイスラエルに対抗するには外の国々から武器援助を受ける以外ない。
 無実の市民が犠牲になったのはハマスが市民を盾に攻撃する戦法をとったからだ。
 自衛隊はあるが戦う意志を持たない日本人には分かりにくい問題である。

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