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「グローバリズムという妖怪」((平成21年1月コラム)

連載:Mr.Ishikawaの時事コラム
「グローバリズムという妖怪」((平成21年1月コラム)
 WTO(World Trade Organization:世界貿易機関)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)が7年近い交渉を経て昨年12月、合意が得られず決裂した。
 これは、その前月のアジア太平洋経済協力会議の首脳会合で麻生首相が得意気に述べた「WTOドーハ・ラウンドの交渉を年内に大枠合意することを目指すという強いメッセージを出すことができた」という内容への鉄槌となった。
 麻生首相の単純素朴な自由貿易至上主義が“グローバリズムという妖怪”に取って食われた格好である。 行き当たりばったりの経済政策ではなく、経済とは何か、貿易とは何か、原点に立ち返って考えてもらいたい。

 筆者は敗戦後の小学生時代、先生から「日本は資源がないので製品輸出で生きていかなければならない」と貿易立国主義を教え込まれた。
 その通り、日本は優れた品質の製品を世界中に輸出し経済成長を遂げ富を蓄え経済大国になり、一時は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」ともてはやされた。 その限りでは日本は自由貿易やグローバリズムの恩恵を受けてきた国である。 そして、自由貿易主義の牽引者はアメリカであり、強大な軍事力、基軸通貨の資金力を背景に世界の市場化、画一化を進め世界を市場経済至上主義、自由貿易至上主義へ導いてきた。 また、通信や交通システムの発達、言語や情報の共通化などでグローバル化が進み、地球は急激に狭くなった。

 とはいえ、地球はまだまだ広い。
 世界には貧しい国もあれば、宗教が違ったり、気候風土が異なる国もある訳で、グローバリズムも年月を経て次第にほころびが顕在化してきた。
 日本は世界一多く農産物を輸入しながら食料自給率向上を目指す自己矛盾の国となった。 また、唯一絶対神のイスラム教信徒の連帯力によるアメリカ帝国主義へのテロ、行き過ぎた市場金融主義のサブプライムローンによるアメリカ発世界恐慌、地球温暖化抑制へ向かう世界を尻目に京都議定書に加わらないアメリカの環境無視など“アメリカ一極支配の終わり”も見えてきた。

 今回の世界同時不況でも日本ではビジネス戦線を世界へ広げてきた企業ほど大きなダメージを受けている。 海外では経済破綻でギリシャやスペインなどでは暴動まで起きている。山形県内でも各地の工業団地が工場閉鎖や社員の自宅待機や操業半減するところが相次ぎパニック状態だ。おとなしい日本人だが、どこまで我慢できるか。

 そもそもWTOは、関税低減、最恵国待遇、多角的通商体制を基本原則とし、ヒト・モノ・カネ・情報の流通を地球規模で促進させるルールだが、安全・安心、環境保全などの概念が欠落している。 これでは欠陥システムである。
 モノを輸出するにも生産する過程でどれだけ環境負荷が発生しているかが問われている。 ところがWTOの下に貿易と環境に関する委員会が設置されてはいるものの、環境保全が基本原則に入る気配はない。 また、自由貿易の結果、経済格差が増し貧困者を多く輩出する国が出てきたり、ジェネリック薬生産を認めなかったり、有害物質が混入した農林水産物の流通を防げなかったり、安全・安心を担保できない。
 自由貿易は根幹から壊れている。

 自由貿易が善で保護貿易が悪であるとする単純な認識では立ちいかない。 必要以上に保護へ走る必要はないが、自由になり自立できなくなっても世界は助けてくれない。 自由貿易や世界金融システムを統治する能力はWTOにもIMFにも国連にもない。
 グローバリズムは一国、一地方で制御できない影響を受けることが前提になる。 これは、繁栄の源泉というグローバリズムの光の陰に潜む闇である。 “グローバリズムという妖怪”が今回堂々と表舞台に現れてきた。 日本の経済産業を救うのは「安全・安心」、「環境保全」、「自立」の概念を取り入れた貿易ルールの確立、環境やバイオマスなど未来型産業へ集中投資し経済を再生させることであろう。
 昨年を一字で表す漢字は「変」だそうだ。世界のマクロ現象が日本国内の地方のミクロ現象と直結するグローバル時代である。
 新年に当たり「変」がどう変わるのか、本年は一層アンテナを高く、感度を良くして注視していきたい。

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