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バイオ燃料は悪者か?(平成20年7月コラム)

2008年7月1日
連載:Mr.Ishikawaの時事コラム
バイオ燃料は悪者か?(平成20年7月コラム)
 レギュラーガソリンが1㍑170円を突破した。200円を超えるのは時間の問題であり、それ以上に上がるのも避けられない。
 歩調を合わせるようにバターやパンなど数多くの食料品も値上げになった。すると一斉に「バイオ燃料悪者論」が吹き出した。食料品値上げの原因はブラジルやアメリカがサトウキビやトウモロコシを燃料に使ったからという理由だ。
 また、投機的資金が穀物市場へ流れ込み食糧高騰を招いたとして「投機ファンド悪者論」も噴出した。6月にローマで開かれた国連食糧農業機関(FAO)の「食糧サミット」でもディエフFAO事務局長は「穀物が乗り物の渇きに使われている」と語気を荒げバイオ燃料を批判した。
 さながら世界は「食糧か、燃料か」に二者択一を迫られているかのようだ。だが、本当にそうか?。それは視野狭窄の短絡な議論である。エネルギーと食糧と国際金融と地域資源と地球温暖化の5つを一体的に認識しないと真相が見えない問題である。

 解剖学者の養老孟司東大名誉教授が社会システムについて注目すべき発言を行っている。
 「省エネだ、リサイクルだ、と言っているがバカげている。石油の元栓を閉めずにつまらない議論に金をかけるなら、いっそ石油を使い切ってしまえばいい。それ以上温暖化は進まないわけだから」と。一見、暴論に聞こえるが、「石油の元栓」論は核心を突いている。バイオ燃料も食糧高騰も煎じ詰めれば「石油の元栓」問題に尽きるからだ。
 人類は産業革命以来、安い石油をふんだんに使って文明社会を築いた。だが、それはもはや限界なのだ。石油を利用できるのはあと40年と言われる。石油を売れる時間が残り少ないので、産油国もおいそれと増産に踏み切る訳にいかない。中国などこれからエネルギーを必要とする新興国は少しでも多く石油を確保しようとアフリカやロシアなど石油埋蔵力を残す国へ遮二無二進出し争奪戦を展開している。広大な国土を抱えるアメリカやブラジルは燃料がなければ移動できないので、石油に代わる燃料の開発に必死なのだ。

 そもそもエネルギーなくして食糧を生産する農業も農機具を動かす燃料がなければ生産できない。エネルギーなしでは産業も生活も成り立たないのだ。だから「省エネ」ではなく「クリーン・エネ」で資源循環型社会を構築しなければならない。需要と供給の関係で成り立つ現代経済社会では需要があるところへ資金が流れる。サトウキビやトウモロコシの需要が増える見通しが出てきたので、これらの地域資源を抱える国へ投機資金が流入したのは必然である。植物由来のバイオマス燃料はカーボン・ニュートラルなので地球温暖化抑制に貢献もできる。今回、日本の電力業界は比較的平静さを保っている。なぜなら、いずれ来る「油断」を予測しエネルギー源の石油への依存度を下げ、原子力へ転換を進めてきたからだ。電気は相対的に環境負荷が少なく安いエネルギーなのだ。逆に、安い海外の農産物を輸入して伸びてきた食品関連産業ではパニックが起き、安い石油を動力源にしてきた漁業は休漁し運輸業界は倒産が続出している。燃料が高くなれば自動車に乗れなくなるのでガソリンで動く自動車は売れなくなり、日本のリーディング産業である自動車生産もいずれ立ち行かなくなる。
むしろバイオ燃料は全世界の石油消費の延命化に貢献していると考えるべきである。「石油の元栓」が閉まれば、エネルギーは自給しなければならない。エネルギー源となる地域資源は国によって異なるので、エネルギー源態様は多様化し分散化する。
 筆者は今年初めのこのコラムで「エネルギーの地産地消を進めよ」と述べた。食糧自給率39%で大騒ぎしている日本だが、エネルギー自給率はたったの5%なのだ。エネルギーは産業、生活、移動、通信、都市や農村を支えるライフラインなのだ。石油は金を出しても高くて買えない時代を経て、やがて土下座してお願いしても手に入らない時代になる。エネルギー源のドラスチックな転換を図るべきだ。日本で比較的豊富なのは木質資源である。糖分が多いサトウキビは効率良く燃料化でき、次いで効率の良いデンプンが多いトウモロコシも燃料化できる。だが、木質はセルロースが多くエネルギー変換効率が悪いので木質のエネルギー化に挑戦している事業は苦戦している。そこで技術力を発揮しながら社会システムを変えるべきである。
 最大の産油国であるサウジアラビアが石油の増産を表明した。だが、それは世界の石油離れが進み産油国にオイルマネーが入らなくなることを恐れたからだ。エネルギー少資源国である日本は太陽光、雪、風力、小水力、波力、農畜産廃棄物や下水道から出るメタンガスなどエネルギーに転換できる資源の活用に全力を上げるべきだ。エネルギー自給率向上の最大の決め手は耕作や管理を放棄している膨大な量の農地と山林だ。ここで量産できるコメやソルガムや菜種などを栽培しエタノールを生産したり、果樹剪定枝や間伐材や支障木などを使い発電すればエネルギーを得られる。当初はビジネスとして成り立たないので価格補償するなど条件整備を行う必要がある。海外では定着しているそのシステムが日本にはない。それこそエネルギー政策の最大の課題なのだ。責められるべきは油断してエネルギー政策の転換を怠ってきた政治と行政である。

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