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しずくプロジェクト

山形県内の蔵元、ワイナリーの協力を得て造ったオリジナル商品を、県内の酒販店からお買い上げいただく事で応援になるという「しずくプロジェクト」。日常生活の中で気軽に参加でき、長く続けられる被災地応援を目的に活動している「普段着の応援」笑顔を集める会が行なっています。今回は代表の安部和徳さんにお話をうかがいました。
やまがた震災支援活動アーカイブ Archive number 008
しずくプロジェクト
しずくぷろじぇくと

震災支援を目的に作られた、地酒のオリジナルブランド『しずくプロジェクト』。酒類卸業のスーパーバイザーと酒販店、山形の酒蔵とワイナリーが協力し、毎回新しい味わいのお酒を開発しています。楽しみながら募金ができることと味の良さが評判を呼び、2014年3月には第9弾目も誕生。今回は『普段着の応援 笑顔を集める会』代表の安部和徳さんと、酒販店を営む東海林さんにお話を伺いました。

安部和徳さん しずくプロジェクト代表 安部和徳さんのプロフィール
 「普段着の応援」笑顔を集める会 代表 安部和徳(あべかずのり) 1970年 長井市生まれ、長井市在住。 山形県酒類卸株式会社(酒類と食品を扱う卸)勤務。 東日本大震災後に担当する酒販店さんと、山形の地酒で応援「しずくプロジェクト」を立ち上げる。「平成25年度やまがた社会貢献基金」協働助成事業として実施。

しずくプロジェクト 連絡先
山形県酒類卸(株)内 しずくプロジェクト本部
TEL0237-77-6781 メールでのお問い合わせ
http://sizuku-sake.jp/    https://www.facebook.com/sizukuproject


支援活動の経過
2011年
6月 しずくプロジェクト立上げ
8月 第1弾 新藤酒造店 「九郎佐衛門 この一滴に」発売973本完売
11月 日本赤十字を通じて義援金29,190円
  第2弾 タケダワイナリー「デラウェア2009瓶熟成 白甘」発売480本完売
12月 ベニバーズオリジナル「樽魔斬」をしずくプロジェクト協力商品として売上金の一部を義援金に充てました
2012年
2月 日本赤十字を通じて第2弾と「樽魔斬」分、義援金44,400』円
3月 第3弾 新藤酒造店 本醸造生詰 出羽の里 販売(寄付金33,510円預)
11月 タケダワイナリー様にて、第4弾しずく発売試飲会を開催
  第4弾 タケダワイナリー マスカットベリーA種2011樽熟成 樽№488樽№489 販売(寄付金18,090円預)
  第4弾発売に合わせて『しずくウィーク』を開催(寄付金6,720円預)
  YSKベニバーズオリジナルケーキ頒布会にしずくワインを使用したケーキが登場
12月 YSKベニバーズオリジナルの『樽魔斬』をしずくプロジェクト協力商品として販売(寄付金27,750円預)
2013年
3月 被災避難者を対象にしたメイクアップ教室開催
  山形市七日町 ほっとなる広場にて絆市(復興祈念事業)に出展
  第5弾 新藤酒造店 美山錦 本醸造無濾過 生詰
  第5弾発売に合わせて『しずくウィーク』を開催(寄付金510円預)
4月 平成25年度やまがた社会貢献基金協働助成事業に認可
5月 ふくしま浜街道・桜プロジェクトオーナー基金へ20,120円を募金(内手数料として120円)(第3弾の一部としずくウィーク分)
7月 第6弾 新藤酒造店 美山錦 無濾過吟醸 生詰
  第7弾 タケダワイナリー ロゼ2009
  第6弾、第7弾発売に合わせて飲食店にてしずくPRを実施
8月 やまがた避難者支援協働ネットワーク登録
9月 山形市 霞城公園 さんま祭りに出展(寄付金13,034円預)
10月 やまがた避難者支援協働ネットワーク意見交換会参加 置賜会場&村山会場
11月 山形テルサにて、第8弾しずく発売試飲会を開催
  第8弾 タケダワイナリー マスカットベリーA種2012樽熟成 樽№474 樽№491 販売
  気仙沼市へ奨学金として79,494円を募金(第3弾、第4弾の一部としずくウィーク、さんま祭り分)
2014年
3月 第9弾 新藤酒造店 雄町 本醸造 生詰 発売
仕事をしながらできる応援 とは

1本の中から30円が義援金になります。(雪の中のボトル)

〈安部〉  酒の卸業という仕事柄、各地の酒販店さんをまわっているのですが、震災後、取引先の店ベニバーズの東海林さんからもちかけられた話が、「お店もあるし現地には出向けないけど、何か私たちでも出来る支援ってないのかしらね」という言葉でした。ちょうど私も同じ思いでいたのと、もう1つ、震災後はさまざまな団体で募金活動が始まり、あっちにいくらこっちにいくらというお付き合いの寄付も多くなっていた時期で。少々負担に感じていることなど、お客さんとのやりとの中でも話題になっていたようなんです。日々の仕事をしながら、自分たちの家計にも負担がなく出来る支援とはー。山形の地酒を飲んでもらって、気付いたら支援になっていた、というスタイルが自然でいいなと思ったわけです。
 提供するのは、普段着感覚のお酒がいい。つまり毎日の晩酌になる価格帯であること。そしてちゃんとおいしいこと。最初は支援だからと買ってくださる方がいたとしても、味が良くなかったらリピートしていただけなくなるはず。
 “少しずつ、無理なく、永続できる応援” これをテーマに、辛党の人たちが納得してくれるお酒の開発から始めることにしたんです。


オリジナル商品の開発へ

新藤酒造店さん

〈東海林〉  「日本酒の開発は『新藤酒造店』さんに依頼しました。理由は、初めて飲んだときに本醸造でこの味わい!?とびっくりした体験があったので。引き受けてもらえたらいいなーと、内心どきどきしながら暖簾をくぐりました。専務さんに内容を伝えると、ご自身の酒造蔵も被害があり、被災地から避難されてきている同業者の知り合いもいらしたそうで、ぜひ協力します!と2つ返事で快諾してくださいました。
 ワインの依頼先は、上山市にあるタケダワイナリーさん。25年かけて改良してきた自社農園をお持ちで、ぶどう作りから一貫したワインづくりをされています。社長さんはいつお会いしても物づくりに対する想いがブレていなくて、ずっと尊敬してきた方でした。タケダさんも、何かしなければと思ってところだったと快く了解してくださって。  ラベルのデザインは、当時山形芸術工科大学に通っていた知り合いの学生さんが引き受けてくれました。というか頼み込んだというか(笑)。コンセプトはみんなが流した涙のしずくに、お酒のしずくが寄り添うようにー。一つ一つのしずくは小さいけれど集まってやがて大きな応援の力になるように。赤をカラーにしたのは、太平洋側で起きた震災だったので、みんなが太陽に向かって進んでいけるようにー。こうした思いを込めています。


完成したのぼり旗

 第1弾からずっと日本酒は新藤酒造店さんが手がけてくださいまして、濃淡の違いはあってもボトルの色はずっとブルー。見た目に変化が出るし、たまに茶色や黒もどうですか?とお話してみたことがあったのですが、専務さん、”青い海が穏やかであるようにという祈りを込めているから、ボトルはブルー。これは譲れない”って(笑)
 商品は絶対的に自信があったものの、何しろ運営資金ゼロのプロジェクトですから、宣伝費がない。ここで活躍してくれたのが Twitterでした。ちょうど趣味で活動している自転車チームの連絡網としてTwitterの使い方を教わっていて、活動のことをツイートしてみたところ、知っている方々がリツイートで応援してくれたんです。しかもその自転車チームの代表メンバーの方が広告デザインの仕事をやっているので、ホームページまで作ってくれて。
 チラシやポスターだってありませんから、最初はラベルのデザインをA4サイズにプリントして、さらに4枚張り合わせて事務所に貼っていたんです。ある日打ち合せに来ていた印刷会社の方が、これなんですか?って聞いてきて、プロジェクトの概要を説明しようとしたら、いやいや内容じゃなくて4枚合わせのこれ。これが完成品なんですか?って。いえいえお金がないのでポスター風にしているんですって言ったら、だったらうちで刷りますよ!っておっしゃるから、いやいやいやー印刷なんて無理。だって1円もないですから?って手をばんばん横にふったんですが、うちは印刷会社ですよ、大丈夫ですって。大判サイズのポスターを刷って寄付してくれたんです。ほかにも、りっぱな看板を作って、所有している敷地に設置してくれた会社もあります。この看板の制作も場所代も無償なんです。ホームページにも画像をアップしているので観てください。プロの方々が自分たちの仕事を活かして支援しようと手を差し伸べてくれて、本当にすごい人たちに支えてもらっています。

 


のぼり旗があるお店で販売しています
〈安部〉  そして今も相変わらず活動資金はゼロなんですが(笑)、スタートして2年が経った頃、しずくプロジェクトは寄付つき商品なので助成事業として申請してみたらどうですか?とアドバイスをもらったんです。そういう制度があることも、この商品の位置づけもまったく知らずに行っていたので、へーという気持ちで申し込み、「平成25年やまがた社会貢献基金恊働助成事業」の助成を受けられる事になりました。その基金でのぼり旗を作ることができたんです。
 ただこの旗を立てるに至るまで、精神的に葛藤する時期もありました。最初は支援したいという単純な発想から始めた訳ですが、だんだん迷いが出てきたというか。まてよ、自分たちは震災に便乗して酒を売っているのだろうかって。アンチ的な声が聞こえてきた訳でもないんですが、大々的な宣伝は控えていました。でも買っていただかないことには義援金も集まらない。とはいえ商売色が強くなってしまうのはどうなのだろう。そんな気持ちがいったりきたりしていたんです。

 気持ちがふっきれたのは、2012年の秋に、CRM(コーズ・リレーテッド・マーケティング/=企業が売り上げの1部を寄付する活動)として事例発表の依頼をいただいたときでした。県内では先駆けだから、これまでの経過を講演してほしいというお話で、CRMもまた知らない言葉でしたから、へーという感じでお引き受けしました。このときいらした講師の方に自分の思いを話したら、当初の純粋な動機を大切すればいいという言葉をいただけたんです。それからですね、堂々と続けていこう、売るためじゃなく、たくさんの方に知ってもらうために活動しようと思えるようになりました。


100店舗近い展開へ

テイスティングをしているタケダワイナリーさん

〈安部〉  当初は5、6店舗から始まって、今は酒販店さんのほか、1杯からできる支援活動として、グラス500円で提供してくださる飲食店さんもあります。山形の在来作物をテーマにしたドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』の上映会に協力したことがきっかけで、東京銀座にあるアンテナショップにも置かせていただいた商品もありましたし、現在は100店舗近くになるでしょうか。いつの間にかのぼり旗が立っている店舗を見かけたり、自分たちでも把握できていない感じです。

 お客様の声をうかがうと、自宅用に楽しんでいる方のほかに、お土産にしたい、友人に飲ませたいなどプレゼントにされている方もいますね。自分たちの結婚式のときにしずくで乾杯したいと言ってくれたカップルもいました。このプロジェクトが継続できているのは、次はいつ?次は何?というリピーターの方が増えているからで、その理由はやはり期待される味だからだと思います。私ものんべいだから、毎回楽しみで。ワインの場合は、同じぶどうを使っても樽の違いで味が変わるため、去年は若い子タイプと熟女タイプができまして(笑)、ラベルに樽番号を入れて販売しました。こんな思いがけない出来具合も、ワイン好きにとってはたまらないですよね。しずくを飲んで、こんな美味いワインになるぶどうを自分も作りたいと思った。出来たあかつきにはオレのところのぶどうも使ってくれって、わざわざお店に尋ねて来られた生産者の方もいらしたんですよ。

 

細く、長く、子ども達のために

2013年11月には、たくさんの方からお預かりした義援金を気仙沼市の奨学金へ寄付しました

〈安部〉  集まったお金は、初回から3回目までは赤十字にお渡ししていたのですが、現在はより顔が見えるところへ届けたいということで、ご縁があった「やまがた気仙沼会」様の紹介で気仙沼市の奨学金へ寄付させていただくようになりました。この会は山形県内在住の気仙沼出身の方々が作っておられ、東日本大震災が風化しないよう『気仙沼さんま祭りin 山形』を開催し、会場での募金を地元の子ども達の奨学金の一部に使ってもらえるよう寄付しています。我々大人も子ども達の成長を見守りながら活動できるので、励みになります。これからも、しずくの活動が広がって、長く継続できたらと思っています。

〈取材:2014年3月〉


 取材を終えて
浅倉かおり
 「CRMであることも寄付つき商品であることも、まったく知らなくて」と笑う安部さんと東海林さん。「何かしなければ」という純粋な思いだけで始められた活動が共感を呼び、仕事や人生の意欲まで変えてしまったエピソードまで生まれ、想いのしずくがどんどん広がっているプロジェクトでした。仕事を持つ人たちにとって、現地へ出向けないもどかしさ、心の中のどこかにある申し訳ないような気持ちは、誰もが感じてきたことではないでしょうか。自分の得意分野や仕事を活かし、時間も家計も圧迫されずに出来る支援のかたちとして、とても参考になる活動でした。
しずくプロジェクトの商品はのぼり旗が立っているお店のほか、最寄りの酒屋さんでもお取り寄せが可能だそうです。
浅倉 かおり
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